第三回目のThe roots and fruits dialogueでは、スペインの若手コレクターであるVictorino Rosón Díez-Feijóoを紹介します。Victorinoはスペインを代表するコレクターVictorino Rosón Ferreiroの息子として、幼少期からアーティストや作品に囲まれて育ちました。そのコレクションには、ローレンス・ウィナーやミリアム・カーンなど国際的に著名なアーティストが含めれており、またコレクションのみならず若手作家を支援するアーティストレジデンスなど幅広い活動を行っています。
父が亡くなったことをきっかけとして、アートコレクションに本格的に向き合いようになり、偉大な父のコレクションを引き継ぐと共に若手作家とのコラボレーションなど活動の幅を広げているVictorinoは、次世代を担う国際的なコレクターとして様々なアートメディアにて注目されています。今回は、コレクションに関わる前の活動から、今後の展望まで未来を創る若きコレクターにお話を伺いました。
ArtX: インタビューの機会をありがとうございます。まずは、Victorinoさんのバッググラウンドについて伺いたいです。そして、お父様がコレクターということもあって、小さい頃からアートに触れていたと思うのですが、子供の頃、アートに関わる前にお父様のコレクションについてはどのような印象を持っていましたか?
Victorino: スペインで生まれ育っていて、学生時代にイギリスの寄宿学校で2年間過ごした後、大学はスペインのナバラ大学に移りました。そこでは、法律とビジネスを専攻しました。投資銀行でのインターンシップも経験して、それが自分の好きなことだとわかりました。 その後、8年間は投資銀行で働いて、そして、パンデミック以降に自分のビジネスを経営し始めました。そして、 2016年に父が他界してからは、父のビジネスについても引き継いでいます。
そして、肝心のコレクションについてですが、今となってはアートが大好きなんですが、幼い頃にどのような気持ちで父のコレクションと暮らしていたのかあまり思い返したことがなかったです。でも、10代の頃は、父のコレクションはコンセプチュアルでミニマルなアートばかりだったので、好きではなかったです。家に新しい作品があるのを何度も見たけど、そこまで好きではなかったです。当時、いつも父に言ってたことがあって、
「なんでエルグレコとかベラスケスとかをじゃないんだ」とよく言っていました。
まあ、当時は値段についても全然知りませんでした。この手のアーティストは全然手が出ないと。
ArtX: そうですか。でも今は、そういうコンセプチュアル・アートが好きになりましたか?
Victorino: コンセプチュアルな作品もコレクションしたりもするけど、それだけという感じではないですね。
ビクトリノと彼の姉妹であるカタリーナとマリアは、コレクターとしての父の遺産を称えるため、2020年にアルデバラン・コレクションを創設しました。このコレクションは、父親のコレクションの保存と、新進アーティストの支援という2つの柱で活動を行っています。2つ目の柱の活動として、現地のアーティストの支援や文化交流のためのエクアドルでのアート・レジデンス、新進アーティストの作品をユニークなロケーションで展示するRoamer Projectを展開しており、コレクションとして父の遺産を存続させるさせるだけでなく、引き継いだ兄妹による新たな取り組みが特徴です。
ArtX: アルデバラン・コレクションについてもう少し詳細に教えてください。
Victorino: アルデバラン・コレクションは、2020年のパンデミックの時に作られたプロジェクトです。 姉妹の、カタリーナ、マリアと、「コレクター」としての父の姿を存続させるために、このプロジェクトを立ち上げることにしました。その上で、僕たちは2つの柱を考えようと決めました。まず第一の柱、企業への作品貸し出しなどを通して父のコレクションを生かし守ること、そして、父のテイストに関連する作品をコレクションしていくこと、そして第二の目の柱は、今僕たち兄妹がやっていることですね。
僕と兄妹が始めた新しい取り組みとしては、主に2つのことをやっていて、 エクアドルにアートレジデンスを持ち、エクアドルの地元のアーティストに手を差し伸べること。また、世界中からアーティストをエクアドルに招き、エクアドルの文化やそこに住む人々について学んでもらうことを行っています。そして、新しく走りだしたプロジェクト、Roamer Projectですね。これらの活動を通して、一緒に走り続けていくことができるような若いアーティストのコレクション・サポートを続けています。

ArtX: 詳しく説明していただき、ありがとうございます。Roamer Projectというのは、言葉の通り、こう歩き回るような展示プロジェクトっていうことですかね、素敵な名前ですね。
Victorino: Roamer Projectの目的は、スペインで展示されたことのないアーティストを紹介することで、なので国際的に展開しているプロジェクトです。例えば、第1回目は、全部で13人のアーティストを紹介したのですが、そのうち12人は海外からの参加でした。
この第1回目では、マドリードから200キロ離れた古城で行いました。お城の中や城壁で、なかなか面白い展示ができました。あとは、その古城での展示の後、マドリッドにあるイギリスの法律事務所のオフィスで3回展示をやりました。
ArtX: 誰も作品を知らないいような場所で、アーティストたちに知名度に貢献できるのが嬉しいですね。
Victorino: でも一方で、このプロジェクトで得た資金についてはすべて非営利団体に寄付しています。 なので、プロジェクトとして面白いと思っています。
ArtX: 次の質問です。父のコレクションと一緒に育ってきて、でも今はアーティストと一緒にプロジェクトを行っていますが、アーティストに実際に接することでコレクションに対する印象とかは変わったりしますか。
Victorino: 例えば、今、父のコレクションのアーティストについて考えてみると、そのほとんどが父の世代のアーティストです。なので、どうしても今の僕たちには少し遠い存在です。なぜなら、彼らはの多くは今現在、巨匠か、亡くなってしまった人もいますからね。でも、僕にとって、コレクションの醍醐味の一つはそのアーティストたちとの交流でもあります。アーティスト本人から作品について聞くことはとても新鮮な体験だし、そうするとコレクションした作品が生き生きとして見えます。
ArtX: そうですよね、それによりアーティストのことをより知ることができるのは大きなことです。
Victorino: 僕が子供の頃に父のところで、たくさんの有名なアーティストとランチをしたりしました。とても有名なアーティスト達で、多くの賞を受賞しているような、とても重要なアートギャラリーに所属しているような人たちでした。 その中には誰だか覚えていないような人もいたのですが、その人たちの何人かが亡くなってしまい、今ではその人たちが誰なのか聞くことができないのです。
ArtX: コレクターの中にはVictorinoさんのように、アートについてより深く知るためにアーティストと交流したいと考える人もいますよね。そういう意味で、コレクターにも色々な方がいると感じます。ただ、コレクターの中にはアーティストと積極的に交流をしたいと考える人もいれば、作品の印象が変わってしまうからコレクションしたアーティストには会いたくないという方がいるように思います。
Victorino: 確かに、2つのグループに分かれますし、だから面白いとも感じます。実は、Roamer Projectで選んだアーティストの中に、日本から来た人がいます。彼は日本から来て、僕の家に来て、そして夕食を一緒に食べました。彼はそこまで英語が上手じゃなかったけど、気がついたら通じ合っていました。彼に会う前は、彼の絵があまり好きじゃなかったけれど、そのディナーの後、彼の絵が好きになったのを覚えています。
ArtX: お父様もアーティストとの交流や、アーティストレジデンスのような活動もしていましたか?
Victorino:そこまでしていませんでした。父はコレクターで作品をコレクションすることに集中していましたし、そういう意味ではとても真面目なコレクターだったと言えます。アーティストの何人かとは連絡はとってたみたいですが、先程言いましたが、彼らは今ではとても地位のある人なので、その点でもとてもクローズドな雰囲気であったと思います。もちらん、父はアーティストについて知りたいとは思っていたのだと思いますが、全員と広く交流を持とうというタイプではありませんでした。

ArtX: コレクションの中で特に印象に残っているもの、これはユニークだなと思う作品はありますか?
Victorino: やはりローレンスウィナーかなと思います。それこそ父がもう何年も前に、15-20年前に二つの作品をコレクションしました。当時はあまり理解できていませんでしたが、いつも何かを感じていました。それで、ここ2、3年でコンセプチュアルアートを楽しむことができるようになりました。興味深いのが、結局、僕自身が父のコレクションに入っているローレンス・ウィナーの作品をコレクションすることになったのです。父と息子で、ローレンス・ウィナーの作品に恋に落ちたってことです。
ArtX: いい偶然ですね。
Victorino: でも、自分自身をコンセプチュアル・アート好きとはそこまで思わないですね。
ArtX: では、あなたの趣味はお父さんとは少し違うということですか?
Victorino: もちろん、それはそうです。でも、人々は、年月を重ねるにつれて、考え方や感じ方が変わっていきますからね。確かに今の僕は、抽象と具象の間にあるような色彩が力強いアートが大好きです。でも、父にこういうアートについてどう思うか聞いてみたいです。でも、美術愛好家や美術コレクターは、特定の種類の美術品だけに集中してはいけないと感じます。なので、どんなアートが一番好きなのか、自分でもよくわからないですが、常に進化していくものと受け入れて、決めつけずにコレクションしていければと思います。
ArtX: いろんなコレクターの方がいるとは思いますが、その中でもVivtorinoさんについては他のコレクターと違う印象を受けます。Roamer Projectやアーティスト・レジデンスなど、新しい分野を開拓し、新しい取り組みを自ら初めていますが、例えば10年後とか、アルデバラン・コレクションの将来についてイメージはありますか?
Victorino: いい質問ですね。誰にもわからないですが、10年後のことを考えると、私達のアート・レジデンスが地元のアーティストたちを巻き込みながら、世界とは言わないけど、ラテンアメリカで主要なレジデンスの一つになればいいなと思っています。コレクション全体について言うとしたら、私は15年後くらいに、コレクションを展示し、すべての人々と共有するためのスペースを持つことができればと思っています。
ArtX: なるほど、アルデバラン・コレクションという名のもとに、広いアプローチで色々なことをやろうとしているわけですね。なぜアーティスト・レジデンスを始めようと思ったのですか?というのも、アーティスト・レジデンスというのはとてもコミットメントが大きく献身的な取り組みだと思います。
Victorino: まず、私がなぜこのようなアートレジデンスを作りたいのかについてですが、レジデンスを運営している人と話していると、アートとアーティストにもっとも近く関わることができると感じるからです。あとは、エクアドルを選んで理由としては、僕自身持続可能性、気候変動に関わることをやりたいと思っていたということもあります。初めて訪れた時に、その国に恋に落ちました。
ArtX: また、将来自分の美術館を持ちたいという考えはありますか?
Victorino: ちょっとそれは今の僕にはとても気取っているように感じてしまいます。でも、何か展示したりワークショプを開くことができるスペースが持てれば嬉しいです。今のところは、それはすぐには実現しそうにないです。ただ、スペースを持たないことでよりフレキシブルな活動ができると感じます。それこそ、コレクションの管理のために保管している倉庫に行ったときに、たくさんの絵画や彫刻、インスタレーションが誰にも見られないままそこにあって色々と考えることがありました。そして、コレクションの作品をオフィスなどに貸し出すという取り組みを思いつきました。やはり、多くの人々に眠いっていた作品が見ていただけるということは嬉しいです。
ArtX: お父様が今の君たちの活動を見たらどう思うと思いますか?
Victorino: きっと喜んでくれるだろうと思います。倉庫に眠っている作品を引っ張り出して、人の目に触れるように展示していて、それは作品に再び命を与えるみたいなことだと思います。もう一つ言うとすれば、僕たちは三人兄妹なのですが、もし父が生前に「兄弟のうち誰がコレクションを引き継いでいくか」を聞かれたとしても絶対に僕の名前は挙がらなかっただろうと思います。
僕たちのプロジェクトは3人兄弟が結束する方法の一つでもありますし、だからこそ、こうして3人兄妹が同じ道を歩んでいくこと自体が最高の遺産なのではないかと感じます。きっと父は幸せなはずです。
ArtX: 今Victorinoさんがやっていることはある意味コレクションを通したお父様との対話みたいなものに感じます。とても素敵な取り組みだと思います。今回はインタビューの機会をいただきありがとうございました。
幼い頃から、作品と一緒に生まれ育ったVictorinoだが、当時はそこまで興味は強く抱いていなかったようだった。しかし、父親が亡くなったことで、偉大なコレクションが彼ら兄妹に残された。残された偉大なコレクションをVictorinoは、父とは違う方法で広げていくことを選んだ。広く、より世界を巻き込んでいく形で、アルデバランコレクションは新たな道筋を歩み始めた。偉大なコレクションをただ保持するのではなく、アーティストレジデンスや展示など、よりアートのエコシステムに働きかけていく姿勢はとてもパワフルで今後が楽しみなコレクターだ。
- こうして3人兄妹が父のコレクションを引き継ぎ、同じ道を歩んでいくことそれ自体が最高の遺産なのではないかと感じます。
彼のこの言葉は、何よりも印象的であった。偉大なコレクションは、父の死により完結せずにVictorinoによって新たなチャプターの幕が開かれた。