沈黙の地層絵肌は、時間そのものの厚みを纏います。
深い藍の闇が静かに揺らぎながら凝縮する夜の気配、上下を分かつ水平な直線と風化したコンクリートのような質感が刻む沈黙、淡い紫と緑ののあいだで息をひそめる気配、橙から紫へと移ろい、そして、雲から覗く明るい青がどこまでも柔らかく広がっていく静けさ。
出来事そのものではなく、出来事が過ぎ去ったあとに積もる時間の質感が、そこにはあります。滲み、溶け、斑になり、沈んでいく色、それぞれの作品が沈黙を抱いています。しばらく目を留めることで、はじめて私たちはその地層に触れることができるのかもしれません。
凪 - 境界に留まる時間今回の「Curator’s Pick」は、三重県松阪市を拠点に、若手日本画家を紹介するギャラリーMOSとのコラボレーションです。静かな風景を描く甲村有未菜の作品をご紹介します。
今回のテーマは、"凪 - 境界に留まる時間"です。
それぞれの作品に境界線が描かれています。空と地、海と船、形は違いますが、その線を挟んで質感がゆっくりと変わっていきます。
暗く沈んだ面の中に、白い線だけが浮かび上がり、茶色い地に色の滲みが広がっています。空と海の境はにじみ、輪郭を持たず、一隻の船は、線の上に静かに浮かんでいます。
その質感の一つひとつが、風景の静けさを立ち上がらせています。くっきりとした境ではなく、緩やかに変わっていく面。
その変化が、風景に独特な存在感を与えています。
夢と語り現実と夢の合間に漂う物語の断片たち。
子どものような視線と、どこか奇妙な親しさが、記憶の中で交差するような作品たちをご紹介します。
眠りと覚醒のあわいに立ち現れるのは、忘れかけたまどろみの記憶です。
大きな服のなかで密やかに集う小さな影たち、大きな赤に溶けていく夜の気配、そして青い入れ物の上で静かにこちらを見つめる無垢なまなざし。古びた絵巻から抜け出したような不気味で愛らしい妖怪たちが戯れ、階段で顔を持たない人々が会話を交わしています。
これらの情景は、懐かしさと不穏さを同時にたたえ、私たちに奇妙な親しみをもたらします。言葉になる前の感情や、いつか見た夢の余韻が静かに響き合う空間。それらは、幼い頃に触れた物語のように、現実の輪郭をそっとほどいてくれるのかもしれません。