日本人コレクター初めてのインタビューとなる今回は、株式会社yutori代表、片石貴展さんにお話しを伺わせていただきました。複数のアパレルブランドを展開する「yutori」の代表取締役社長であり、国内アパレル企業の経営者としては最年少で株式上場を果たしました。また、その活動は経営者だけにとどまらず、「69」として音楽活動も行っています。今回は、彼のパーソナルな部分、アーティストとしての一面、注目起業家としての顔を捉えるため、自宅とオフィスでのインタビューをさせていただきました。前編となる本記事では、幼少期からの影響、個人的な思想、カルチャーやアートとの関わり、コレクターとしての意識について取り上げています。

Q1.
今回のインタビューがdialogue: roots and fruitsというタイトルなんですが、しっかりと根を張って初めて良い実がなると思うんです。そういう意味で、しっかりとどういう土壌で育ったか、そこから「枝」「実」とたどっていくインタビューです。まあ、それこそ根っこの部分についてですけど、どういった子供だったか、そして今のコレクションにつながるような思い出、出来事があれば教えてください。
片石:小学校の頃って頭いいやつってあんまりモテないっていうか、足速いやつが人気じゃないですか。足が速いとか、力強いとか。結構価値観がフィジカルによっていて、でも僕にはそういう突出した運動能力みたいなのがなくて、みんなとこう馴染んだり、仲良くなるためにみんなが興味あるものを掘って、先に広めるみたいなことをしていました。当時だったらゲームの雑誌とかめっちゃ読んで、次このゲームが流行るとか、共通のコンテクストの中で、その自分しか知らないものを結構探すのが好きでしたね。小学校だと、漫画とかゲームとかそういうもので、それが音楽とか洋服とか、今の自分につながる方向に徐々に変わっていった感じですね。
ArtX: それが今のコレクションだけじゃなくて、仕事にもつながってそうですね。子供の頃から「コレが来るんじゃないか」っていうアンテナをずっと張っていたってことですね
片石:Yutoriの理念が「はぐれ者を強者」になんで、そのまだ世の中に見つかってない子たちを見つける発掘するっていうのはすごい自分のルーツだし、「野ブタ。をプロデュース」っていうドラマに影響を受けていて。あの修二と彰で、その桐谷修二が亀梨さんが演じるキャラクターなんですけど、そのキャラに自分は影響を受けていて。そこが本当にルーツな気がしますね。
ArtX: その小学校の頃に感じたその足速い人とか、身力が強い人だけが評価されている中でどうしていくかってことですね。
片石:違う方法で、どうやったら人気者になれるかなみたいな、人気者になりたいっていうのは結構あったかもしれないですね。
Q2.
子供の頃からカルチャーに沢山触れてきたと思うんですけど、片石さんの肌感として、その音楽やファッションという「カルチャー」といわゆる「アート」は地続きだと思いますか?
片石:つながっている部分とか、もちろんあると思うんですけど、やっぱり音楽とか洋服は大衆芸術よりで、そういうポップさみたいなのに対して、アートは割とその狭いコミュニティかなと思います。別にその狭いのが悪いってことじゃなくて、一定のそのリテラシーとお金的なものも含めて、割と一部の中で完結する部分も多いので、結構違うんじゃないかなと思いますね。やっぱり洋服はマーケティングの側面が強いし、音楽もいろんなスタンスで作っている方もいるとは思うのですが、広くあまねくヒット曲って聞かれたりするもので、そういう意味でアートは結構違うというか、アートの方がまあ複雑だし、すごく「内在的なもの」なのかなっていうのは感じます。結局、その波の中でどう波乗りをするかみたいな感覚に洋服は近いので。

多分その意図した流行って、80年代とか90年代とかにはあったような気はするのですが、2000年以降、特にSNSが発達してからは、やっぱりその「みんなが欲しいものが欲しい」とか、「みんなが好きなものを好き」っていう、その消費者がトレンドを作るようになったと思っています。そうすると、そのトレンドの中でどう商売をしていくかっていう視点が、少なくとも僕のやっている経営の中だと強いんで。それってそのパーソナルなものとは結構遠いというか。もちろんその中で自分がわかっているものを出さないと勝てないんですけど、その矢印の順番がアートとファッションだと特に違うのかなっていう。音楽は、なんとなく中間にあるような気がしますけどね。

ArtX: その違いは新鮮ですか?そのアートの違う部分について
片石:最初は特にそうでしたね。かなりその作者のポエティックな部分がやっぱりムードにつながってるなって感じはあったんで。そこから受けたこうなんかインスピレーションみたいなのは多いかなと思いますね。

Q3.
前の質問にもつながりますが、その過去から今で、そのゆとりさん自身が音楽やファッション見てきた目と、その作品を見る時の目は同じですか?
片石:近いのはやっぱり、人を見る視点で言うと一緒かなと思います。
その作者の人と直接話してやっぱ作品を買うっていうのが結構こだわっている部分ではありますね。あまり作品だけで買うっていうよりは、直接どういう考え方でその作品を描いたのかをコミュニケーションできるのってあまりないじゃないですか。そのコレクターとアーティストが密接な距離感でつながっていると思うんで、そういう意味で「その人の才能をどう捉えるか」みたいな視点で言うと、今やっている経営、洋服の部分とそのアート部分は近いのかなと思いますね。この人いけるんじゃないかっていう、なんかいいなみたいな感覚。
Q4.
初めてアートを見て、情熱というか、「これってすごいな」って感じた時のこと、初めてコレクションした作品について教えてください。


片石:山田康平くんの赤と黄色の作品です。多分若手の合同展が百貨店でやっていて、そのときにパンってこれが入口にあったんです。何か他と全然違ったっていうか、俺の感覚では、この人本物っぽいなっていう感覚がありました。なんかどこを、何を見てその作品が書かれたのかっていうことの、作者の意図とか解釈が透けすぎのものって個人的にあんまりそんなに好きじゃないです。だけど、この作品にはそれが見えなかったんですよね。いろんなものを経由して、このアプローチに来たんじゃないかなっていうのと、僕はその美術の学問がそんなにないから、もしかしたらそうではないのかもしれないけれど、僕のインスピレーションとしては、そのすごい朴訥としてて、初期衝動的だし、パンクで情熱的だけど、そこに同時に同じぐらいの知性も乗っている感覚があって、そのやっぱり相反するものをどう融合していくかってのは自分の1個のテーマでもあるから、クリエイティブとビジネスもそうだし、すごいいいなっていうのを思いましたね。たまたま買えて、調べてみると、若手でアップカミングな子でした。

ArtX: そのこれだって思う感覚は、ビジネスをやっていてこれだと思う感覚と同じですか
片石:そうですね。ただ、やっぱりアートはその自分のためのものだから、それで自分は商売してるわけじゃないから、もっとアートの方が自分の感覚に近いのかなとは思います。
ArtX: 純粋な自分の感覚ってことですかね
片石:そうそう、自分がこれかっこいいか、かっこよくないか、なんか好きかどうかっていう。ビジネスだとその直感はなくて、「イケる」って判断の中に当然それが売れるかどうかって視点が入ってくるんです。アート買う上ででやっぱりその自分が持ってる作品の価値が上がってほしいなって思うから、それこそよこしまな気持ちもないわけではないですが、アートの方がピュアにそういう良いか悪いかっていう意思決定を自分の中でしてるような気がしますね。うん、そうじゃないと意味ないのかなって個人的に思います。
ArtX: そうやって、追っていけるのは楽しいですよね。
片石:はい。あとやっぱり刺激をもらうこともあるので。
Q5.
なるほど。初めてコレクションしたときから、作品をコレクションすることに対する思いに何か変化はありましたか。
片石:変わってないですね。それも会社の理念にも近いのですが、「自分がアートを買う意味」っていうのをやっぱり僕は結構考えてて、単なる購入者ではなくて、やっぱりその意味のある存在として、そこにいたいなっていうエゴイスティックな部分もあって。コレクターの人って上を見たらきりがないというか、当然買ってきて、たくさん買ってきた人ってそれだけ貢献してきた人だと思うから、順繰りにそういう方に回っていくと思うんですけど、その中で自分がこれから上がっていきそう、自分と一緒に切磋琢磨できそうな若者、その同世代の人の作品を買うっていうのは、すごい意識してますね。何か単に有名なものとか、みんなが欲しいものをミーハー感じで買うのではなくて、「自分の直感と一緒にやってこうぜ」みたいなそういうバイブスでの購入が多いですかね。
「すごい朴訥としてて、初期衝動的だし、パンクで情熱的だけど、そこに同時に同じぐらいの知性も乗っかってる」
初めて買ったという山田康平さんのペインティングについて、自分の言葉でしっかり捉えていることがとても印象的だった。作品を見た時のとらえ難い感覚を、的確に言葉にできるのは自分の言葉や感性でしっかり消化しているからこそだ。彼が子供の頃から接してきたファッションやカルチャーについて語る時、それはただ熱狂的に好きなだけでなく、どこか分析的でその洞察は鋭かった。
感覚的でありながら、理路整然と話す様子に迷いはなかった。
多くの方がアートに興味を持っており、コレクションに興味を持っている方も増えている。ただ、現代美術に限らずアーティストは様々で、オークションを見ればマーケットとしての情報が沢山あり、アートの世界の狭さも相まって、どうしていいのか、どこから見ていいのかわからなくなっている方が多いように感じる。そのように迷ってしまうのも無理はない。
そのような中で、外の価値基準に寄らずに、あくまでなぜ自分がコレクションするのか、それを問い続け、一緒に歩んでいく作品を選ぶ姿勢を持ち、自分の感性、心の声に耳を傾けている稀有な若手コレクターだ。
このようなコレクターが増えてくれるといいと思う。


Inside the Collection with Takanori Kataishi
片石さんに、コレクションしている作品についてお話しいただきました。
その様子をぜひご覧ください。