アートフェアは一年を通して世界中で開催されており、その時のマーケットを映し出していると言える。今回紹介する作品は、Unlimitedというセクターで展示されていた大規模インスタレーション作品だ。大規模な作品のプレゼンテーションだが、そのどれもが販売されている。キュレーターや美術館関係者なども多く訪れるArtBaselでこそ可能なセクターであると言える。今年のUnlimitedセクターでは、草間彌生、カール・アンドレ、キース・ヘリングなど広く知られるアーティストの他、ユニークな背景を持つアーティストが選ばれた。今回は、Unlimitedで展示された”ユニークな背景を持つアーテイストを紹介する。

フランシス・オフマンの《無題》では、コーヒーのかすでコーティングされたゴワゴワした布が、本の海のその上に広がっている。このインスタレーションは、彼の母親がその生涯で使っていた聖書、20世紀初頭のフランスの教科書、万国百科事典、19世紀にアフリカを旅したヨーロッパ人の記録などで構成されている。それぞれの本は、かつてベルギーの植民地支配者が人種分類のためにルワンダの人々の顔の特徴を測定し、判別するために使用した器具で支えられている。オフマンは、この暴力を、彼の祖国の特徴的な文化であるコーヒーを飲むことの楽しみと並列している。それゆえに、本作品は自身の文化背景との対話と自己和解であり、個人的な体験を深めることで集団の歴史とつながりを持っている。
フランシス・オフマン(1987年 ルワンダ、ブタレ生まれ)は、贈られた布や廃棄された布、使用済みのコーヒーかす、期限切れの包帯、紙くずなど、再利用された素材を使って壁面作品やインスタレーションを制作している。幼少の頃からイタリアに在住。現在、ボローニャ在住。

セバ・カルフケオの本作品は、チリで巻き起こった新自由主義的と民営化の只中で、水とマプーチェの人々との歴史的な絆を、水、身体、領土、マプーチェ語といったテーマを通して詩的に政治的な側面をも紐解いている。インスタレーションは、マプドゥングンの水のトポニーから、水の商品化を象徴するチリの水道法の抜粋文まで、さまざまな要素で構成されており、水の容器の形をした陶器は、「干ばつ」「略奪」「1981年」をそれぞれ意味している。パフォーマンスでは、マプーチェの抵抗の象徴であるグニュエルベを顔に描いたアーティストが登場した。実際に起こった出来事と、それにまつわる史実的な要素を儀式的とも見える配置で表現することで、神聖な雰囲気さえ感じさせる作品だ。

セバ・カルフケオ(1991年サンティアゴ・デ・チリ生まれ)はマプーチェのアーティストで、彼らの文化遺産を出発点として、現代チリ社会におけるマプーチェの主体の地位について批判的な考察を促す作品を制作している。サンティアゴ・デ・チリ在住。
ミシェル・ジョルニアックは、宗教、家族、国家、道徳など、規範的な社会システムとその儀式に疑問を投げかけている。フロイトへのオマージュ(Hommage à Freud)の写真モンタージュでは、自分の両親を登場させ、エディプス神話をひっくり返した。そんなミシェルは、本作品「エディプス・レックス」では、3体の骸骨にそのドラマを演じさせた。作品は床に倒れた父親、首を吊った母親、座った息子の3体の骸骨で構成されている。作家は「身体はすべての印、すべての傷、すべての痕跡の場所である。肉体には、拷問、社会階級の禁止事項、権力者の暴力が刻まれている。」と述べており、本作品においても肉体の様々な配置や状態によって家族、そして社会的な構造の暴力性まで表現している。

ミシェル・ジュルニアック(1935年パリ生まれ、1995年パリ没)は、ウィーン・アクショニストやジーナ・パネと並ぶボディ・アートの中心的存在として尊敬を集めるフランスを代表するアーティストである。ジュルニャックの作品においては、反乱、過激、破壊が表現されている。世界有数の美術館に収蔵されており、広く評価されている。


ここで紹介した作品は、自身の政治的、文化的なバックグラウンドから掘り下げつつ私たちの生きる社会に向けて強く発信するような作品である言える。特に、今回紹介した3名のアーティストのように大型の作品をもってして、そのアーティストの葛藤、社会との折り合い、決意が表現されるのは圧巻である。このような作品を見るとそのインパクトと「作品」が人の意識の変化に与える大きな影響を身をもって感じることができる。