日本人コレクター初めてのインタビューとなる今回は、株式会社yutori代表、片石貴展さんにお話しを伺わせていただきました。複数のアパレルブランドを展開する「yutori」の代表取締役社長であり、国内アパレル企業の経営者としては最年少で株式上場を果たしました。また、その活動は経営者だけにとどまらず、「69」として音楽活動も行っています。今回は、彼のパーソナルな部分、アーティストとしての一面、注目起業家としての顔を捉えるため、自宅とオフィスでのインタビューをさせていただきました。後編となる本記事では、片石さんのアーティストとしての活動、起業家としての目線、そして今後のビジョンについて伺いました。
Q1.
コレクター、起業家としてだけでなくアーティストとしての活動もされていますが、コレクターとして作品を集めること、そして作品に触れることからアーティストとしての活動への影響はありましたか。
片石:そうですね、アート自体が自分とすごく距離のあるものというか、結構純粋な創作活動寄りじゃないですか。そういう崇高な制作が結構自分と遠いところにあるのかなって思っていたんですけど、アーティストと話して、どういう解釈で、どういう思いでこの作品を作ったのかを聞いたときに、何て言うんだろう「とっつきにくいもの」ではないというか。自分でもそういう考え方、何か物作りってできるし、別に普段やってることと質感は違うけど、あんまり変わらないのかなと思い始めました。やっぱり作ってる人はかっこいいし、僕はそういう人にすごいリスペクトがある。距離が遠くなかったと気づいたみたいな、なんか自分でもできそうみたいな。それは絵を描くってことじゃなくて、僕の場合詩を書くってことがずっと好きだったんで、紙をメロディーに乗っければ歌になるわけだから、やってみたいっていう思いにはかなり繋がりましたね。初めて作品を買ってから3年くらい経って、アートにちょっと触れてそれが蓄積されて、自分もやってみたいっていうのに繋がりましたね。
Q2.
その詩を書くことについて、どういったインスピレーションで書いてますか?
片石:Yutoriの初期からホームページの一番最初にコンセプトメッセージがあって、その詩を見て出資してくれた人とかもいるんですよ。自分ってやっぱりその「人と仲良くしたい」って思ってるんで、思ってることをうまく人に伝えたいっていう、その願いみたいなのがあって、すごく自分の発する言葉とか、書く言葉にはずっと気をつけてきていて。会社だとすごいパブリックなメッセージなんで、とはいえ、いろんな関係者がいてその中でどう折り合いをつけるかっていう部分があって。自分の内在的なものではあるけど、歌は別にこれで食べていくわけでもないし、本当にピュアな自分の創作活動に寄ってますね。結構自己懺悔的な自己嫌悪とか、そのノイズブルースっていうのが1個のテーマで、自分が体験してきた「自分に対して嫌だな」って思ったことを書いていくっていう感じです。すごくネガティブなものでも、それが音楽っていうことで、メロディーが乗ったりとかトラックがついたりとか装飾的になっていくと、そういうドロっとしたものもポップになるのは音楽の面白いところだなと思います。
ArtX: 自分の中にあるものを内省的に見つめて詩にしてると、
片石:こういう自分って気持ち悪いなみたいな、それをただ言葉で言っちゃうと、人も受け取りづらいと思うんです。なんかそういう部分も知ってほしいじゃないけど、あとはやっぱ経営者としての自分がフォーカスされると、その反対にあるクリエイションとかクリエイティブみたいなものって何て言うんだろう、雑に捉えられるというか、経営の人だよねっていう、クリエイターとしての自分がなんかなめられてんのも嫌だなみたいな、俺も普通につくること好きなんだけどみたいな、別に経営だけじゃないんだけどっていうのは、結構最近は自分の気持ちとして感じていますね。
ArtX: 多分だから、ブレないんですね。自分を見つめているから、とても内省的だから。
自己嫌悪っていうのは、今の仕事だったり、生活の中で感じるものですか?
片石:どちらかと言うと、今の自分は好きな自分になろうとしてなってしまった感じです。結構、過去のどうしようもない自分っていう方が強いですね。それをメッセージとして残してます。「愛されたいやつ、愛されない」っていうのがサビのフレーズとしてもあって、そういう人多いじゃないですか。「自分を愛して、自分を理解して」みたいな、けどなんていうんだろう、愛って多分そういうものではないというか。何か今の人って俺もそうなんですけど、こういう条件が達成されないと良好な関係が成立しないみたいな、どんどん限定的になってるような感じがしています。
その歌詞で引用してるのがStevie Wonderの有名なフレーズで、ただその伝えれば、もう伝えるだけで、あとは覚悟を持つかどうかみたいなことを彼は言っていて。愛について考えて、愛されたいと思えば思うほど、それから遠ざかっていくこのなんか切なさみたいな、実体験でもあるからそれについてはよく考えますね。
Q3.
仕事においても、コレクターとしても直感を大事にしているようにみえますが、直感はどこから来るものだと思いますか、また、どういうときに一番直感が働きますか?
片石:インプットを通した無意識の判断が直感だと思っていて、そのインプットで言うと、相当若い頃からファッションとか音楽とか、そういうアートの周辺にあるようなカルチャーを消費者としてかなり摂取してきたっていう自負はあって。僕の場合だとやっぱ古着とか、その日本のインディーズのバンドとか、オルタナティブ的なカルチャーが強くて、それはルーツとしてすごく強くあるのかなっていうのと、ちょっとずれてしまうけど、SNSはやっぱり仕事柄X、TikTok、インスタグラム、YouTubeを全部広く、中ぐらい深く見るようにしていて、世の中のムードが今どうなってるのかとか、みんなが何に怒ってて、逆に言うと何が欲しいのかとか、そういう世相的な部分も自分の中ではかなり強く意識してますね。ファッションという職業がトレンドビジネスに近いものなので、積極的にインプットしてますね。あと、スピリチュアル的な考え方もすごく好きなんで、ルーツとそのトレンドと、あと自分にとってのそのスピリチュアルみたいな部分、その三つで何か判断してるような気がします。
Q4.
マスへのアプローチと世界観の両立について意識していることはありますか。
片石:その世界観とビジネスの両立っていうのは、もうそれこそクリエイティブ業界にも置けるすごく難しい問いだと思います。中学生のときとかも、StüssyとかSupremeとかそういうストリートカルチャーが好きで、高校生のときに初めて原宿の古着屋さんに行きました。当時流行ってた日本のデザイナーズブランドとかも、この15年間見てると、やっぱり伸び続けてるブランドっていうのほぼなくて、どこかでピークアウトしたり、あるいはその過去の成功体験に引っ張られて、なかなかそこからスタイルチェンジできずに、規模は拡大したまま、ひたすら在庫が余ってくるみたいな、ブランドが陳腐化していくみたいな感じで。
結局これが何で起きてるかっていうと、やっぱその日本はデザイナーが社長になることが多くて、海外だと、そのプロデューサーとデザイナーって結構別で、LVMHとかもそうだと思うんですけど。日本は何故かわからないけど、デザイナーの方が社長やっていて、基本1社1ブランドってケースが多いんです。僕は1個のブランドを常に右肩上がりで成長させ続けるのは無理っていう考え方で。ファッションが好きだからこそ、そのすごくシビアな現実を自分体感していて、なのでYutoriとしてはもう立ち上げたときから、もう会社で10ブランド20ブランド50ブランド、100ブランドできる器をどうやって作るかっていうのと、ブランドの実際の需要に合わせながらやっていますね。別に広げるのが悪いことでもないし、狭めるのも悪いことでもないし、そのお客さんにとって熱狂できるサイズに常に拡大したり縮小したりっていうことを有機的にできるのがすごく大事かなと思うんで、全体、会社としてでは規模を狙いつつ、1個1個のブランドは、ブランドのアイデンティティを維持したまま、トータルで大きくなるような経営というか、考え方はしてますね。
ArtX : すごく全体を見て、流動的に動いてるみたいですね
片石:本当にそのさっきの観察みたいなとこにも繋がるけど、トレンドマーケットを常に観察しながら、今広げすぎてないかっていうのをかなり臨機応変に判断することを重視してますね。
ArtX: ある意味すごくクールな目線でブランドをみつつ
片石:見てますね、愛があるから逆に言うと希望はそんなにないっていうか、愛はあるんだけど変な希望はないんですよね。
ArtX: とても冷静な目線で見ていると
片石:やっぱりずっとやりたいっていうのがあるんで、なんかもう盲信、慢心みたいなのはなくしていきたいなと思いますね。
Q5.
最後の質問です。起業家として、コレクターとして、アーティストとして幅広い活動をされていますが、今後社会にどういう影響を与えていきたいですか?
片石:結構本当に「野ブタ。をプロデュース」を初めて見た小学校6年生の頃から、何か世の中に見つかってない人を発掘してそういう人をそういう尖った才能と社会との接点になるっていうのが、本当に自分の今世の役割だと思うんで、若者の中で、自分が資本主義、自分たちが資本主義でも成功して富を獲得して、その富をその才能ある子たちに分配ってちょっと何か変ですけど、投資して、このオルタナティブな文化が金銭的にも大きくなっていくっていう、その役割を自分になってるっていう使命感じゃないですけど、そういう反骨精神みたいなのは強くあります。若者帝国をいろんなアプローチで作っていきたいし、だからそのためにコレクションするアーティストさんも、やっぱり同世代とか、ちょっと下の方とかが中心ですね。その中で、自分がフックアップできるぐらいの立場になりたいなと思っています。
「愛があるから、逆に言うと変な希望はないっていうか、やっぱりずっとやりたいっていうのがあるんで、
なんかもう盲信、慢心みたいなのはなくしていきたいなと思いますね」
愛があるから、希望はない - 愛と希望は、色々な場面でまるでセットのように使われる言葉だ。
ただ、彼は、愛があるから、希望はないとした。それはファッションに対する夢に溢れた一方向の愛ではなくて、ファッションという世界と「共に」歩んでいくための愛だ。
彼がビジネスについて語る言葉からは、視野の広さと同時に深さが感じられる。深く見ることと、広く見ることは、一見相反するような言葉のようだが、彼の中でそれはうまく溶け合っているようにみえた。
ビジネスという流動的な世界で活躍する経営者でありながら、内面的な世界や感覚を大事にし、自分自身に問い続ける - 愛ゆえの冷静さ、覚悟を持って行く末を見守るその目線に迷いはなかった。